べん毛モーターの回転計測において,慣性力,遠心力は考慮すべきか?
バクテリアのべん毛モーターは,直径が約40nm,という極小の回転モーターであり,そのままではその動きを観察することができません.
また,べん毛モーターから伸びているべん毛フィラメントもとてもとても細く,一般的な光学顕微鏡で観察することは不可能です.
しかし,レーザー暗視野を用いた計測,蛍光染色した計測(フィラメントは観察しているが回転は計測していない?),などいろいろな計測方法があります.
しかし,一般的には,ポリスチレンビーズをべん毛フィラメントに付着させた実験系が一般的です.
では,まずは,べん毛モーターの回転計測の基本的な性質を見ていきましょう.
・光学顕微鏡で観察・計測
バクテリアが生きている状態で観察する必要がありますので,光学顕微鏡で観察・計測しています.
・水溶液中
光学顕微鏡のところとかぶりますが,水溶液中で実験をおこないます.
塩,バッファーなどの水溶液ですが,粘性は水とそれほど変わらず,
\( \Large \eta = 10^{-3} \ Pa \cdot s\)
とします.ここで,ニュートン流体を考えます.溶液の弾性要素は無視してかまわないこととします.
温度は大体室温,25度程度と考えればいいかと思います.
もちろん,溶液の粘度を変えた実験,温度を変えた実験もあります.
・ポリスチレンビーズ
シリカなどの別素材のビーズを使うこともありますが,ここでは,一般的なポリスチレンビーズについてです.
ポリスチレンとは,ネット情報では,プラスチック樹脂,ということです.
ここ,によると,
密度:1.05 g/cm3
となっており,若干水より密度が高い素材となっています.
・回転速度
回転速度に関しては,菌種,負荷,入力エネルギーなどの条件に依存しますが,大まかな値を表にすると,
・ビブリオ菌
ビーズサイズ (㎛) | 1 | 0.5 |
速度 (Hz) | 150 | 650 |
トルク (pN・nm) | 4,000 | 1,000 |
・大腸菌
ビーズサイズ (㎛) | 1 | 0.5 |
速度 (Hz) | 50 | 300 |
トルク (pN・nm) | 1,500 | 700 |
・回転半径
べん毛フィラメントに固定したビーズの重心位置と回転中心が一致している場合,回転を検出することができませんので,基本的に偏心しているビーズを計測します.
その回転半径は,フィラメントとビーズの付き方に依存するので,ばらつきますが,
ビブリオ菌の場合:0.5 µm
大腸菌の場合,:0.15 µm
程度です.
さて,いろいろな手法で検討していきましょう.
次ページには,レイノルズ数,から検討していきます.